私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「サムサッカー」

2006-10-09 18:16:11 | 映画(さ行)
2005年度作品。アメリカ映画。
17歳になってもまだ、親指を吸うクセが抜けない少年が、自分自身や周囲と向き合う過程を描く。
監督はCMなどを手がける映像クリエイターで、本作が長編デビューとなるマイク・ミルズ。
出演は若手俳優のルー・プッチ。「ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女」などのティルダ・スウィントン ら。


人は何かに依存して生きている――映画のセリフにもあったが、それは真理であるし、そうでない人間はいないだろう。

主人公は親指を吸うクセが抜けないティーンエイジャーだ。親はそんな彼のクセをみっともないと思っているし、主人公も自分自身それをあまりよいクセと思ってない。しかし彼を緊張するとそれをせずにいられない。そのクセこそ彼が依存している対象だからだ。
彼はしかしその子供じみたクセから抜け出そうと、彼なりに奮闘をはじめる。その過程で、彼は反発している家族に対して、間違った考えをいくつかもっていくことに気付いていく。
そのような観点から見たとき、この映画は成長物語だと言えるだろう。ティーンエイジャーが、主観的なものの見方から客観的、複眼的に物を見ることを学んでいく。成長物の王道だ。

しかしこの映画は単なる成長物では終わっていない。
普通の成長物は大概、少年時の自分自身に別れを告げることで完結をするものだ。しかし、本作の主人公はその少年時の自分自身を象徴する、親指を吸うというクセを捨てることがないからである。
そういう意味、この作品は成長物であると同時に、アンチ成長物ともいうべきであろう。

本作では子供じみたクセを持つ自分を捨てることではなく、許容することで新たな道筋を示している。端的に言うと、自己と他者に対する受容ということだろうか。この視点が極めておもしろく、個人的には好印象である。
目立ったストーリー性もないし、地味な作品ではあるが、愛すべき小品と僕は思った。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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